酒田市城輪柵跡
ニ
昭和十五年に山形高等学校に入学して、最初の漢文の授業の時である。出席簿を開いた野村岳陽先生が、「阿部」(私の旧姓)と先ず私の名を呼んだ。そしてまじまじと私の顔を見つめた。それからやおらおごそかな声で、
「アベ氏は、蝦夷の子孫ゾ」
と言った。級友たちが一斉に私をふり向いて、小さな笑い声をあげた。